年金の受給資格をめぐる男女差を違憲とした初の司法判断
教員であった妻が職務上のストレスからうつ病を発症し自殺。遺族の夫(妻の死亡時51歳)が地方公務員災害補償法に基づく遺族補償年金の支給を申請したが、受給資格を満たしていないとして年金不支給とされた処分の取り消しを求めた訴訟。
判決日 2013年11月25日
裁判所 大阪地裁
1 地方公務員災害補償法が遺族補償年金の受給資格を設けていることについて
→制定時(1967施行)は正社員の夫と専業主婦からなる世帯が一般的で、合理性があった
2 現在の社会状況について
→社会状況が大きく変化している
・専業主婦よりも共働き世帯の方が多い
・男性の非正規雇用が増加
3 結論
→今日の一般的な家庭モデルは共働き。配偶者の性別で受給権の有無を分けるような差別的取扱いは合理性がない
【ケース1】夫が死亡、妻が遺族の場合
妻は年齢は問われず、遺族補償年金が支給される
【ケース2】妻が死亡、夫が遺族の場合
①妻の死亡時、夫が55歳以上
遺族補償年金が支給される
ただし、支給の開始は60歳以降(55~59歳は支給されない)
②妻の死亡時、夫が55歳未満
遺族補償年金は支給されない
(一時金の支給のみ)
※今回のケースは【ケース2】②に該当
今回争われたのは公務員のケースでしたが、民間にも会社員を対象とした労働者災害補償保険法(労災)、遺族厚生年金(厚生年金)など同様の規定があり、受給資格に男女差を設けています。今回の裁判所の判断は、家族モデルが大きく変化していることを指摘し、にもかかわらず法律が法制定時のまま置き去りにされていることはおかしい!と判断したものと受け止めることができます。原告の家族は、家族の死という現実に立たされて、初めて法の不合理さを知ったのではないかと思います。
遺族補償をめぐる男女差は、自営業者等が加入する国民年金にも存在しました。遺族が夫の場合は、遺族基礎年金が支給されることはなかったのですが、法律が改正されて、2014年4月からは夫にも遺族基礎年金が支給されることになりました。
遺族補償年金や遺族厚生年金の受給要件に設けられている男女差を放置することは許されず、社会情勢の変化を踏まえた法のあり方を考えさせられます。
①遺族補償年金(労災保険の遺族補償のこと)
<ケース1>妻が遺族の場合
年齢、障害状態は問われない
<ケース2>夫が遺族の場合
妻の死亡当時夫は60歳以上、又は障害の状態にあること
②遺族厚生年金(厚生年金の遺族補償のこと)
<ケース1>妻が遺族の場合
年齢は問われない
<ケース2>夫が遺族の場合
①妻の死亡時に夫が55歳以上
遺族厚生年金が支給される
ただし、支給開始は60歳から(55歳から59歳は支給されない)
②妻の死亡時に夫が55歳未満
遺族厚生年金は支給されない
※お断わり
わかりやすさを第一に、法律用語は平易な言葉に置きかえています。さらに詳しい情報を確認したいときには、判決文や各法律の条文をご確認ください。
更新日:2013.11.28