世界のワークライフバランス

ドイツとワークライフバランス

〜ドイツ旅紀行とともに〜

はじめに

旗

ドイツは16の連邦州から成り立っています。このところの欧州域内の債務不安問題で不安要素も出てきているようですが、EU発足当初からの加盟国であり、輸出が好調でEU最大の経済大国。BMW本社も、ベンツ、ダイムラー、ポルシェなどの高級車の本社もドイツです。“これでもcar〜”というくらい、ミュンヘン市内はBMWが走っていました。昨年秋から2012年3月にかけては、日独交流150年の記念行事がドイツ国内や日本国内でも数々催されています。

ワークライフバランスの位置づけ-ドイツ×日本-

フランスやアメリカと違いドイツは、ワークライフバランスを重要な政策課題と位置付けています。この点は日本と共通します。日本は2007年(平成19年)12月18日に政・労・使合意の基に制定された「ワーク・ライフ・バランス憲章」、同12月には労働契約法が制定され、第3条3項には「労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ又は変更すべきものとする」と明記されました。2010年(平成22年6月29日)には、長時間労働の抑制、年次有給休暇の取得促進、メンタルヘルス対策等に取り組むことが重要であるとした「新ワーク・ライフ・バランス憲章」も制定されています。

ノイシュヴァンシュタイン城
ノイシュヴァンシュタイン城

世界中から観光客が訪れるノイシュヴァンシュタイン城。1869年に起工し、1884年には、ようやくこの城を建てたルートヴィヒ2世(1845-1886)の4階の住居部分などが完成。しかし、王の突然の死により城の全面完成には至っていないそうです。ルートヴィヒ2世の没後125年、王と同時代を生きていたのは、舞姫や山椒大夫の作者である森鴎外(1862-1922年)。陸軍省の派遣留学生としてドイツ留学中だった森鴎外は、王の死をリアルタイムに知り、王が謎の死を遂げたシュタルンベルグ湖畔を訪れたそうです。

ドイツのワークライフバランス

1990年以降にドイツが直面した課題はヨーロッパの中で最低レベルになった出生率と少子高齢化の加速です。日本の現在の合計特殊出生率は1.39(2010年)、ドイツも1.36(2009年)と低迷。65歳以上の高齢化率にいたっては、日本・ドイツともに20%を超え超高齢社会をひた走っています。
ドイツのワークライフバランスは、「ワークライフバランスの実現が国全体の力を強める可能性を持つ」という考え方に基づいています。ドイツのワークライフバランスは、日本のように「ライフ全般」というよりも「家庭」が中心になっています。ワークライフバランスは、“女性の育児と仕事の両立を助けるための女性支援策”という方針から、“男性を含む社会全体を対象とした家庭と仕事の調整を支援する”方向へと大きく転換したそうです。2000年代に入ってからは、連邦政府主導のワークライフバランスが積極的に進められ、その重要性も認識されるようになってきました。イクメンプロジェクトなど男性を含む働き方の見直し、ワークライフバランス推進の重要性が今日やっと浸透しはじめた日本は、ドイツに一足遅れを取ってしまっていますね。

リンダーホーフ城
リンダーホーフ城

ドイツ屈指の名門ヴィッテルスバッハ家の生れであるルートヴィヒ2世ひとりだけの城だったそうです。フランスの太陽王ルイ14世を崇拝していたことが城や庭園の随所に見られました。
人間嫌い、狂王とも呼ばれ、今風に表現すると引きこもり王だったルートヴィヒ2世は、食事中の召し使いの奉仕さえ嫌ったそうで、床には1階で豪華にセットされた食卓が2階の王の部屋へ吊りあげられる「魔法の食卓」も見られました。

ドイツの年休制度

プラットフォーム

ドイツの年休制度は、「連邦年次有給法」(以下、同法)に規定されています。年次有給休暇は暦年で最低24週日保障されています(同法第3条)。また、「労働者及び労働者類似の者は労働関係ないし契約関係が6か月間存続すると完全な年次有給休暇を取得することができる(同法第4条)」と規定されています。休暇の時期設定は、日本の年次有給休暇時季変更権(労働基準法第39条5項)と似た規定があり、「使用者は労働者の希望を考慮する必要があるが、差し迫った経営上の必要性がある場合、または、社会的観点の下で優先されるべき他の労働者の休暇時期の希望がある場合にはこの限りではない」(同法第7条1項)とあります。日本と大きく違うのは、「労働者の個人的な都合で休暇を分割する必要がない限り、連続して与えなければならず、分割する場合でも、最低12週日の休暇が連続付与されなければならない(同法7条2項)」とある点でしょうか。仮に日本にもこのような規定があると、まとまった長期休暇の取得も増えるでしょうし、有給休暇取得率(現在の取得率47.4%)も向上し、ワークライフバランス憲章に定められている2020年の数値目標70%に近づく道筋が見えてくるのではないでしょうか。
ドイツは隣国と陸でつながっており、シェンゲン協定加盟国にはパスポートなしで行くことができます。通貨も単一通貨ユーロを採用する国々では、国ごとに通貨が変わる心配もありません。ノイシュヴァンシュタイン城に世界中から観光客が訪れるのは、人々を魅了するドイツの誇る観光地であるとともに、欧州各国の人々の休暇に対する熱い思い入れをと感じます。ミュンヘンからブダペスト行きの列車には、どこの国の言葉かよくわからいのですが、私のスーツケースの2倍以上あるスーツケースを持った、とにかく多くの国の人と乗り合わせました。よくしゃべる、良く笑う、“休暇は誰のもの?”『私のもの』、“休暇は誰が楽しむためのもの?”『私が楽しむためのもの』という感覚が体中からにじみ出ているように感じました。

ドイツの育児休業制度

日本の育児休業制度にあたるドイツの「両親時間」。両親時間は、子供が満3歳になるまで合計36カ月分の育児休業を請求する権利が与えられています。両親時間は、両親が分担して取得することも、両親のどちらかが単独で又は同時に取得することも可能です。両親時間中も完全休業するケースと使用者の同意を得て週30時間以内の就労を行うこともできます。日本も2010年(平成22年)の育児介護休業法の改正で「パパママ育休制度」の導入などで男性の育児休業も取得しやすくなりました。日本と同様にドイツは性的役割分担がはっきりしており、男女の賃金格差もEU域内で比較的大きく、男性が育児休業を取得すると、その間の収入問題がドイツにもありました。ドイツは2007年に新しい育児休業中の所得保障制度が導入されるまでは、男性の育児休業取得率は3%程度だったそうです。それが改正により、「両親手当」が支給されるようになりました。両親手当の基本支給月額は子の出生前の平均賃金の67%が支給され、所得制限はありませんが、高所得者への過大な給付を抑制するとともに低所得者への確実な所得補償を行うための仕組み等が設けられたことで、直近では男性の育児休業取得率は16%程度まで上昇しているそうです。日本も本気で男性の育児休業取得率を向上させるならば、男女間の賃金格差の解消へ向けた取組みと育児休業中の所得保障の引き上げの検討の余地は十分にあるかもしれません。

市内

参考文献
JILPT 労働政策研修報告書No.116
JILPT データブック国際労働比較2011
地球の歩き方 南ドイツ'11〜'12

ミュンヘン市内の景色

市庁

ドイツは第二次大戦後に東西に分断された歴史があります。子育てに対する考え方も大きく異なっていたそうです。旧西ドイツと旧東ドイツが1990年に統一され、その際のコストを賄う臨時増税として導入された連帯税は、20年経った今も課税が続いています。しかし、今回旅の拠点にしたミュンヘンなどの南ドイツは、長い間、後回しにされてきたそうです。それがやっと予算がつき、道路や教会などあちらこちらで工事が行われていました。ぼやっとしていると、工事シートに覆われてしまっていて、目的の教会を通り越しそうにもなりました。ドイツでは早い人だと15歳で社会に出るそうで、その時から介護保険料も徴収が始まり(日本は40歳から)、その他もろもろの税金で給料の半分がなくなってしまうと言っていました。会社から提示された金額にウホウホしていたら、手取りを見てガックリした話も聞きました。

おわりに

市内

日本と同様に少子高齢化対策に国を挙げて取り組むドイツ。ドイツは北から夏休みが始まり、早いところでは6月中旬から夏休みだそうです。ミュンヘンはドイツの中でも最後の夏休みに入っている州で、街は比較的静かでした。そんな中、ビシっとスーツ姿がきまったビジネスマンを見かけました。右手にはTHEビジネスマンとばかりにアタッシュケースを持ち、左手にはパンパースを2袋も持って颯爽と歩いていました。かっこいい!すごくかっこいい!霞が関や大手町のビジネスマンも、パンパースを両手に颯爽と歩いてほしいと思いました。そんな風景が日常的に見られるようになれば、ワークライフバランスという言葉は過去の言葉になっているかもしれませんね。

参考文献
JILPT 労働政策研修報告書No.116
JILPT データブック国際労働比較2011
地球の歩き方 南ドイツ'11〜'12

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