世界のワークライフバランス
〜フランス旅紀行とともに〜

フランスとワークライフバランス

フランスの写真1

近年、合計特殊出生率が2を回復した国として注目されているフランス。日本は2010年6月、政労使の合意により新ワークライフバランス憲章(*1)が発表され、国を挙げてWLBに取り組もうとしています。一方、フランスはWLBを総体的な政策として展開している国ではありません。しかし、フランスの2006年の合計特殊出生率は2.005と2を回復した国として非常に注目されています。合計特殊出生率が2を超えているということは、出産可能な年齢にある女性が、生涯に2人以上子供を産むということを意味しています。日本は様々な施策が行われてはいますが、2人目の出産をためらう傾向もあり、2008年の合計特殊出生率は1.37にとどまっています。

フランスが2人目の出産を一般的な選択肢として可能にしている要因はどんなところにあるのでしょうか?また結婚・出産した女性の就業率が、日本のようなM字カーブ(*2)を描くことなくきれいな台形を保ち80%を超える高い水準を維持している要因は何なのでしょうか?これらを紐解いていくと、フランスの出生率の向上の要因が見えてくるような気がします。

(*1) 新ワークライフバランス憲章
新ワークライフバランス憲章は、ワークライフバランスの森2010.7.21の記事でお読みいただけます。

(*2)M字カーブ
日本人女性の年齢階層別労働力率がアルファベットのM字に似ていることからこの名称がついており、結婚や出産を機にいったん労働市場から離脱する日本人女性の典型的な就労パターンを表しています。

フランスの長期の有給休暇

フランスの写真2

フランスというと長いバカンスを取るというイメージがありませんか?フランスのバカンスの習慣は、1932年法(*3)の連続15日間の有給休暇の創設からはじまっています。1982年からは5週間(30労働日+週休日)の年次有給休暇が保障されるようになりました。これは、法定の最低限の休暇です。労働協約によりこれ以上の有給休暇が定められている場合も多いそうです。海外に行ったときに、まだ夕方6時や7時なのにお店がクローズしていたり、バカンスの時期には完全休業してしまっている店の多さに驚いたことはありませんか?この時期は、パリ市内からパリっ子は姿を消します。シャンゼリゼ大通りは日本人観光客や中国人観光客でいっぱいです。

フランスの写真2

フランスのバカンスというと南へというイメージがあったのですが、最近は比較的近場でゆっくりと過ごす人も増えているそうです。世界遺産のモンサンミッシェルとパリ市内は東京と名古屋くらいの距離なのですが、孤島のモンサンミッシェルまでは一本道、あちらこちらでキャンピングカーを目にしました。

そしてモンサンミッシェルには、エレベーターなどありませんので、一段一段階段を登っていくのです。急な坂道をベビーカーを担いで登るファミリーを多く見かけました。“バカンスは家族みんなで楽しむ!”という強い心意気のようなものを感じました。

(*3)1932年法
「工業、商業、自由業、家庭業務及び農業における年次有給休暇を設定する1036年6月20日の法律」

フランスの育児休業

フランスでは、子供が3歳になるまで育児休業が認められています。さらに、短時間勤務という選択肢もあります。制度はあるけれど使い勝手が良いとはいえない日本の短時間勤務制度と違い、誰もがごく普通にこの制度を利用しているそうです。効率よく仕事をする努力も怠らないそうです。また、育児休業取得後、復職した労働者に対する支援体制が整っている点にも注目できます。「職業教育を受ける権利」があるのです。育児休業を3年間フルに利用した場合、復帰すること事態を不安に感じることもあるでしょう。IT技術の変化は目覚ましいものがありますし、労働環境の変化も無視できないでしょう。“安心して戻れる場所がある”、ということは就業率80%を保っている要因の一つではないでしょうか。

フランスの税制優遇措置

所得税が世帯単位で、N分N乗方式で課税されています。簡単に言ってしまえば、子供の数が多いほど税制上優遇を受けることができるのです。フランスでは、日本と違い50%が法律婚以外のカップルから出生しているということはありますが、法律婚と平等に取り扱われています。

また、企業のWLB制度に対する税制優遇としては、企業が従業員に対してWLBにかかる措置を講じた場合には税制上の措置を講じています。保育所、託児所の創設運営への財政援助、育児休暇中の親に対して行われる職業訓練費用、突発的な時間外労働のために支払われる保育費用の補償、育児親休暇、病児休暇を利用する報酬などが該当します。

日本も公共調達(入札)の際に、ワークライフバランスを推進する企業に対して優遇する制度を導入しましたが、まだはじまったばかりです。フランスのように思いきった税制上の措置を講じてみてはどうかと思います。

このほかにも、子供を育てるための国と企業からの手当や給付などの経済的支援、保育制度の充実、また多様な家族形態にも柔軟に対応するなど、様々な要因が相乗効果を発揮してフランスの出生率の向上につながっているのではないかと思います。

参考文献:(独)労働政策研究・研修機構
労働政策研究報告書№116 ワークライフバランス比較法研究<中間報告>
     データブック国際労働比較2010

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