労働生産性という観点からもワークライフバランスとメンタルヘルスは密接な関係にあります。生産性を下げないためにもメンタルヘルス不全者を出さないことが重要です。
メンタルヘルス不調者の雇用に関わる問題として、労働契約に基づく就業に支障が見られる場合の就業制限、休業、復職、退職などに頭を悩ます企業が増えています。平成23年版(2011年)の自殺対策白書によると、自殺者が13年連続で3万人を超え、職場の「勤務問題」を自殺の原因とする労働者も相当数含まれ、早急なメンタルヘルス対策が企業に求められています。
2000年(平成12年)の最高裁判所の判決(いわゆる電通事件)やその前後に次々と出された(1)〜(3)のような通達やガイドラインは、労働者のメンタルへルスの問題が事業者に課された法令上の責任にかかわるものとして認識されるきっかけになりました。
(1)心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について
(基発第544号、1999年(平成11年)9月)
(2)精神障害による自殺の取り扱いについて
(基発第545号、1999年(平成11年)9月)
(3)脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について
(基発第1063号、2001年(平成13年)12月)
【最高裁判決】 2000年3月(いわゆる電通事件)
[1990年] 青年(O氏)電通入社 ラジオ局ラジオ推進部に配属 その後、慢性的な時間労働に従事、慢性疲労状態からうつ病に罹患
[1991年8月] O氏自宅にて自殺
[1993年] 両親が「自殺は長時間労働の過労によるうつ病が原因」として東京地裁に提訴
[1996年] 一審・東京地裁、会社側の責任を全面的に認める <1億2600万円>
[1997年] 二審・東京高裁、会社側の責任を認めたものの、本人及び家族の落ち度もあったとして損害額を減額 <9000万円>
[2000年3月24日] 最高裁判決
・「会社側にはO氏の長時間労働と健康状態の悪化を知りながら、負担軽減措置をとらなかった過失がある」と電通側の注意義務違反を認定。さらに、O氏側にも責任があったとして損害額を減額した二審の判決を破棄し審議を差し戻した。
・「使用者がその雇用する労働者に従事すべき業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負う」ことを明確にした(健康配慮義務)。
・労働者のうつ病に罹患しやすい性格は過失相殺の対象にならないことを明確にした。
[2000年6月] 東京高裁で和解成立 <1億6800万円>
事業者には、労働契約が成立した時点で新たに、「業務による健康上の問題が労働者に起こらないように配慮する」義務が発生します。
事業者が労働者に負っている労働契約上の債務で、事業者が労働者に対し、事業遂行のために設置すべき場所、施設もしくは設備などの施設管理または労務の管理にあたって、労働者の生命および健康などを危険から保護するよう配慮すべき義務
■陸上自衛隊八戸駐屯地事件 最高裁判所判決1975年(昭和50)2月25日判決
昭和40年7月13日、自衛隊八戸駐屯地方第9武器隊車両整備工場にて、車両整備をしていた自衛隊員が後進してきた大型自動車の後車輪で頭部をひかれて即死した事故について、両親が国に対して損害賠償を請求した事件。
最高裁が「安全配慮義務」という言葉を使って国の安全配慮義務違反に言及した事件。
メンタルヘルスの観点からは、「心身の過重な労働負荷を背景として生じた抑うつ状態の一症状としての自殺を防ぐための配慮も安全配慮義務の範囲に含まれるとの考えがほぼ定着している。
(独)労働政策研究・研修機構の「職場におけるメンタルヘルスケア対策に関する調査」(2011年6月23日プレスリリース)結果によると、約9割(86.2%)の事業所がメンタルヘルスと企業パフォーマンスの関係を認識しています。
そして、メンタルヘルスケアに取り組んでいないところでも、今後は過半数が「今後は強化する」と回答しています。
休職制度を設けるか否かは法律上の義務ではありません。企業の規模やそれぞれの事情により、企業の判断で決定します。
休職制度を設ける場合は就業規則に記載し、社員に制度の内容を周知する必要があります。
※休職に関する事項は就業規則の相対的必要記載事項です。
(独)労働政策研究・研修機構の「職場におけるメンタルヘルスケア対策に関する調査」(2011年6月23日プレスリリース)から事業所の手続きのルールの状況を見てみます。
・人事担当者がその都度相談してやり方を決めている 43.1%
・社内で復職に関する手続きルールが定められている 32.9%
・復職は、ぞれぞれの職場の上司・担当者に任せている 17.4%
これを規模別に見てみると、おおむね規模が大きいほど「手続きルールが定められている」割合が高くなっています。30人未満で「手続ルールが定められている」割合は22.2%なのに対して、1,000人以上では53.6%と過半数を占めています。
休職から復職までの一連の流れを制度化しておくことで、労務管理をスムーズに進めることが期待できる他、社員の不公平感の払拭にもつながります。
休職制度を定めている場合は、就業規則、労使協定、長期欠勤者の復職の取扱規定などの社内規定から、以下のような項目を確認、必要があれば整備します。
□制度に関すること
・休暇制度に関すること
・給与に関すること
・休職期間、休職期間満了時の取り扱いについて
・解雇、解雇制限 等
□休職の手続きに関すること
・休職時の手続き
・休職中の診断書の提出方法
・休職中の療養附加金の事務的な手続方法 等
□制度に関すること
・復職を認める基準
・復職の決定に関すること
・復職後の軽減勤務に関すること
・試し出勤制度の有無
・復職後のフォローアップ方法・期間 等
□復職の手続きに関すること
・復職時の手続き
・復職に関する主治医からの診断書の提出
・会社の指定する医師の診察の有無 等
休業する社員には会社の休職制度について丁寧に説明しておくことが後々のトラブルを防ぐことにもなります。メンタルヘルスに関する情報は、社員個人の健康に関する情報であり、個人情報の取り扱いには十分注意することが必要です。家族に伝える場合や主治医との連絡を会社が取る必要がある場合にも、本人に了解を得て行う必要があります。
□休職制度に関すること
・休業中の事務的な手続き
・有給休暇でどこまで休めるか
・その後の病気欠勤扱いはいつまでか、どの時点を過ぎれば休職となるのか
・休職の限界はどれだけか
・復職に関すること 等
□給与に関すること
・休んでいる間の給与の扱いについて
・健康保険からの傷病手当金はいくらか、いつまでもらえるか 等