労働契約法が改正されます

有期労働契約の新ルール

8月3日に労働契約法改正案が成立し、8月10日に公布されました。契約には、無期労働契約と有期労働契約がありますが、今回の改正は有期労働者の保護に重きが置かれました。有期労働契約を反復更新の下で生じる解雇に対する労働者の不安を解消するというものです。

労働契約法改正のポイント

労働契約法改正のポイントは3つあり、(1)有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換、(2)雇止め法理の法定化、(3)期間の定めのあることによる不合理な労働条件の禁止です。
一番の目玉は(1)有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換です。これは、改正労働契約法施行(※)後に有期労働契約を締結し、その更新によって勤続5年を超えたパートタイマーや契約社員等は、希望すれば雇用契約を「期間の定めのない契約」すなわち無期雇用に転換できるようになるというものです。

(※)一部を除き、公布から1年以内に施行予定

(1)有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換

有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合(※1)は、労働者の申込みにより、無期労働契約(※2)に転換させる仕組みが導入されます。

(※1) 原則として、6か月以上の空白期間(クーリング期間)があるときは、前の契約期間を通算しない。
(※2) 別段の定めがない限り、従前と同一の労働条件。

(2)雇止め法理の法定化

雇止め法理(※)が制定法化されます。

(※)最高裁判所判決で確立している雇止めに関する判例法理
有期労働契約の反復更新により無期労働契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、または有期労働契約の期間満了後の雇用継続につき、合理的期待が認められる場合には、雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、有期労働契約が更新(締結)されたとみなす。

(3)期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止

有期契約労働者の労働条件が、期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合、その相違は、職務の内容や配置の変更の範囲等を考慮して、不合理と認められるものであってはならないものとされます。

(4)施行期日

(2) 平成24年8月10日(公布日)
(1)、(3)平成25年4月1日

  • 関係通達
    平成24年8月10日付基発0810第2号「労働契約法の施行について」

企業の対応

同一の使用者との間で、有期労働契約が通算で5年を超えて反復更新された場合は、労働者の申し込みにより、無期労働契約に転換する今回の改正は、このルールの施行日以後(平成25年4月1日)に開始する有期労働契約が対象です。施行日前に既に開始している有期労働契約は5年のカウントには含まれず、時間的に余裕がありますので慌てる必要はありません。
まずは、現在の有期労働契約の契約状況を把握し、転換の申し込みがいつ発生するのか、それぞれの企業の状況に合わせて対応策を検討していくことが求められます。

働く人の注意点

このルールの適用を受けるには、労働者からの申し込みが必要です。また、無期労働契約の労働条件(職務・勤務地・賃金・労働時間など)は、別段の定めがない限り、直前の有期労働契約と同一となります。『雇用形態が正社員に変更される』わけではありません。ご自身の労働契約を確認し、疑問に思うことなどがあれば会社に確認することが必要です。

ワークライフバランスの視点から改正法をウォッチング

(労働契約法第3条3項)
労働契約は、労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする

労働契約法第3条3項(労働契約の原則)にはこのような条文があります。たった19条(※)の条文でスタートした労働契約法施行時には、ワークライフバランスが労働契約法に盛り込まれたと注目されました。
 今回の労働契約法改正に至るまでには、異論も含めて様々な議論がなされたようですし、改正法が施行された現在も様々な議論があるようですが、ワークライフバランスの観点からもこの改正が労使双方にとってプラスになるように期待しています。


(※)改正により、第18条から第20条までの規定が追加されました。

(1)多様で柔軟な働き方の広がりへの期待

日本の雇用は、無期雇用(期間の定めのないもの)か有期雇用(期間の定めのあるもの)の二者択一に偏っています。新卒の段階で正社員になれなければ、その後の働き方が不安定な有期労働契約に硬直化してしまう若年者雇用の問題にも表れています。
 今回の改正により、要件を満たし労働者が希望すれば有期雇用から無期雇用に転換できる仕組みが導入されることで、多様で柔軟な働き方が広がる契機になることを期待しています。育児や介護などの事情を抱えながら仕事との両立を望む人達には短時間正社員の働き方はニーズがあります。正社員という画一的な働き方の見直しがされ、短時間正社員のようなあくまで「正社員」という身分のまま、フルタイム正社員よりも短い所定労働時間で働く制度が広がれば、正社員にとっても柔軟な働き方が可能となります。

(2)人材力の底上げと労働生産性向上への期待

年次有給休暇にはどんな意味があるかご存じすでか?年次有給休暇は、労働による心身の疲労を回復させて、労働者が健康で文化的な生活を送るために一定の条件のもとの与えられる休暇のことです。
 有期雇用契約は、常に雇止めの不安があり労働者の年次有給休暇の取得という正当な権利行使が抑制されているという問題点が指摘されていました。現状、そのような光景を目の当たりにしてきました。非正規社員には有給休暇はないという経営者の誤った認識も少なからずありました。
 ワークライフバランスの実現には、仕事の効率化が欠かせません。そのためには生活者として良いインプットがないと仕事で良いアウトプットは出てきません。効率的でメリハリのある仕事をし、私生活ではリフレッシュと同時に自らを高めて仕事の付加価値につなげることが重要です。労働者の不安解消と同時に、ワークスタイルイノベーションにより人材力の底上げと労働生産性の向上につながることを期待しています。

(3)経営サイドの不安はプラスに変えたい

経営側としては、改正法により人件費の増加に懸念を抱いている場合も少なくありません。高年齢者雇用安定法の改正により、65歳までの雇用が原則として義務付けられ、企業にとっては人件費の増加は一時的には大きな負担を強いる可能性もあります。
 しかし、正社員雇用のメリットとしては、本格的に少子高齢化社会に突入する人口減少社会では、企業は人数とレベルを一定水準以上に保つことが可能です。海外で起きた日系企業の暴動事件の背景には、正社員と非正規社員の賃金などの待遇格差が引き金となったとの報道も耳にします。改正法の施行により、正社員と非正規社員の労働条件の格差が是正されれば、労働者のモチベーション維持にもつながることも期待されます。
 ワークライフバランスは福利厚生ではありません。企業に勤務する以上は会社に貢献するのが基本ですので、働く側の意識の向上も能力向上も当然求められます。1人ひとりが能力を上げる努力を絶えず行い、日本全体で戦略的な人材育成が行われることも期待します。

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東京労働大学【労働法】専門講座での総括指導、又所属する労働法研究会顧問でいらっしゃる明治大学法科大学院教授野川忍先生の著書です。労働契約法誕生までの経緯から今回の労働契約法改正まで網羅されており、今後の課題も含めて多くのなぜ?についてわかりやすく解説されています。

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