平成25年3月25日、一般社団法人日本経団連団体連合会から『企業のワークライフバランスへの取組み状況~ワーク・ライフ・バランス施策に関する企業事例集~』が公表されました。経団連は、早くからワーク・ライフ・バランスの積極的な推進に取り組んでおり、同様の事例集が平成23年3月にも公表されています。”育児との両立支援”が中心的な取り組みであった2年前の事例集と比較して、介護、キャリアアデザイン、働き方の見直し等、幅広い施策に取り組み、又運用面での工夫が数多くされていました。また、労使が協力してワークライフバランス推進に取り組む姿勢が数多く見られました。
事例集には、66社の取組みが紹介されています。その中で、独自の視点で時代や社員のニーズにあったユニークな取組み10社をピックアップします。
【取 組】
全社員を対象にした施策として、5つの相談窓口(母性保護、両立支援、男性専用、上司専用、セクハラ相談)を別々に設置し、様々な相談、問い合わせがしやすいように工夫
【解 説】
男性専用、上司専用といった窓口を設置しているのはユニークな取組です。女性の相談員には相談しづらい内容や上司ならではの内容など、相談内容はさまざまです。特に管理職の立場になると、業務のことにとどまらず、部下の育成方法や労務管理の問題など管理職に課されるフィールドが広くなります。社員が多様化しているからこそ、1人ひとりのニーズに合った対応が求められています。
【取 組】
2012ものづくり体験「資生堂パーラーのロールケーキづくり」を実施。
【解 説】
仕事と育児の両立支援が進んでいる資生堂でのファミリーデーの取組です。ファミリーデーの効果としては、「働きやすい、家族を大切にする職場」を社内に浸透させる効果があります。資生堂パーラーで大好きなケーキを作る、という体験には子供たちは目を輝かせることでしょう。
【取 組】家族見学会の実施。自席への案内や高層階からの展望を楽しんだり、食堂での食事・デザート食べ放題等のイベントを実施。
【解 説】
子供たちの夏休みを利用して、新本社お披露目も兼ねて実施されたファミリーデーの取組です。3日間で約1000家族、3600名が参加したイベント。学校給食に親しんでいる子供たちが、普段家族が食べている食堂で食事をする経験で、食卓での話題がまたひとつ増えるでしょう。
【取 組】
妊産婦の健康管理休暇として、通院や妊娠・出産により通勤・就業が困難な場合に、通算10日(80時間)を時間単位で利用できる有給休暇制度を導入。
【解 説】
つわりなどの妊娠中の体調や産後の体調の回復には、非常に個人差があります。また、1人目の子供と2人目の子供でも、体調の変化が異なることもしばしばあります。体調不良時でも、仕事の責任を果たさなければならないのが仕事人です。柔軟に利用できる休暇制度があること、使えることは社員の働き続けるモチベーションと安心につながるでしょう。
【取 組】
(1)労働時間管理と業務進捗確認の徹底として、ピークオフチェック(業務進捗を確認する管理表)の活用と有給休暇の年間計画取得促進
(2)仮想デスクトップ・電子稟議書等の導入による場所、時間の制約に捉われない形での生産性向上
【解 説】
業務進捗を見える化することで、効率的な仕事の進め方に効果があります。万一、業務上の問題点があれば、早い段階で改善策を見つけて対処することも可能です。プロジェクトなどは1年の間に波があることもあり、業務の落ち着いている時期に有給休暇を計画的に取得することができるのも、見える化ならではの効果です。
ITの活用は柔軟な働き方を可能にします。シンクライアント端末などのクラウド活用は、これからますます注目されることでしょう。
【取 組】
育児休業等の期間中は人事評価を行わない、という人事評価基準を明確化。復帰後は休業前の評価を通算する。
【解 説】
育児休業等の休業期間があると、その後の昇進・昇格に少なからず影響が出ることがあります。そのために、男性よりも女性の昇進・昇格が遅れたり、また男性が育児休業取得をためらう一因ともされています。休業期間中の人事評価基準を明確にすることにより、安心して業務に打ち込むことができます。ポジティブアクションの推進にもつながります。
【取 組】
上長と社員が、日常的に労働時間を強く意識する環境づくりを目的とした「勤務実績配信システム」と「勤務実績状況表示システム」を導入。また、各自の在社時間を社員のパソコンに表示する「在社時間表示システム」を導入。
【解 説】
社員1人一人のセルフマネジメントとチームリーダーを中心としたチームマネジメントの2つを柱に働き方を改革しています。労働時間を意識することで、業務の効率化や生産性の向上が期待されます。定時退社の推進、臨時出勤の抑制、休暇取得促進といった労働時間の適正化に成果を上げています。
【取 組】
労働時間キャンペーンとして、時間外・休日出勤時の「事前申請・承認・命令」や会議10則の掲示、労働時間チェックカードの導入など集中的、かつ継続的に取組みを行う。
【解 説】
労働時間の適正管理チェックシートを管理職用と非管理職表と作成し配布しています。不要不急の仕事の見直しや業務プロセスの改革につながる取組みです。効率よく働き、余暇・余裕時間を増やすことで、自分と家族のために使う時間を充実させることがワークライフバランスの推進であるという目的がわかりやすい形で社員に浸透することが期待できます。
【取 組】
(1)パソコンON/OFF時刻記録による労働状況の可視化を実施。
(2)セキュリティPCの導入により、出張先、自宅等でも高セキュリティにて勤務可能な体制を構築。
(3)社内SNSで社員同士のノウハウの共有を促進。
【解 説】
情報・通信技術を駆使し、柔軟な働き方を可能にしています。同じ課内でも業務の重複が発生することがある中で、全社横断的に社内を見渡せるSNSの活用は効果的です。ノウハウの共有により、社内全体の業務の効率化も期待できます。
【取 組】
セカンドライフプログラムとして、シニア社員の多様化・多様なライフプランを支援。
【解 説】
職業生活が長期化する中で経験豊富なシニア人材の活用は企業にとってもプラスです。高年齢者雇用安定法の改正により平成25年4月から65歳までの継続雇用が企業に義務付けられ、早い時期からのシニア層へのキャリア支援が今後ますます重要になってくるでしょう。
事例集に掲載された66社は、いずれの企業もワークライフバランス推進の先進企業です。施策を導入するにあたり従業員ニーズをくみ上げたものと思われますが、育児・介護・休暇制度など法定を上回る施策が数多く見られました。特に、育児休業や育児短時間勤務の期間はニーズに合わせて取得可能期間が長期化している傾向がみられました。例えば、育児休業復帰後の短時間勤務制度の利用期間が長くなれば長くなるほど、担当する業務の範囲が狭まり、キャリアアップにも少なからず支障が出る可能性があります。社員1人一人の意識面を含めたキャリアビジョンを支援する取り組みが今後ますます必要となるものと思われます。
東京都と東京都立大学オープンユニバーシティは共催で時事的課題セミナーとして、『働き方・休み方改善セミナー』を開催されます。「休み方」にスポットをあて、勤務間インターバル制度などの紹介とともに、休息の重要性をお話します。
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