高年齢者雇用安定法が改正されます

改正の経緯

平成25年4月からの厚生年金の支給開始年齢の引上げにより、現行の高年齢者雇用安定法のままでは企業の多くの定年が60歳であり、平成25年度には、60歳定年以降、継続雇用を希望したとしても、雇用が継続されず、無年金・無収入となる者が生じる可能性があり、年金支給と雇用との接続が課題となっていました。
これにより、定年後原則として希望者全員の再雇用を企業に義務付ける高年齢雇用安定法の改正案が国会に提出され、平成24年8月29日に改正高年齢者雇用安定法が成立しました。

現行の高年齢雇用安定法の例外措置

現在の高年齢者雇用安定法には以下のような例外措置があります。

  • 高年齢者雇用制度において、定年を定める場合には、60歳を下回ることができない。
  • 65歳未満の定年を定めている事業主に対して、65歳までの雇用を確保するために、次のいずれかの措置を導入しなければならない。

    (1)定年の廃止
    (2)継続雇用制度の導入
    ⇒労使協定により基準を定めた場合は、希望者全員を対象としない制度も可能
    (3)定年の定めの廃止

高年齢雇用安定法の改正の概要

上記、現行の高年齢者雇用安定法の例外措置(2)にある定年に達した人を引き続き雇用する「継続雇用制度」の対象者を労使協定で限定できる仕組みの廃止などを内容としています。定年の65歳への引上げを義務付けるものではありません。

継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止

継続雇用制度の対象となる高年齢者につき事業主が労使協定により定める基準により限定できる仕組みが廃止されます。

継続雇用制度の対象者を雇用する企業の範囲の拡大

継続雇用制度の対象となる高年齢者が雇用される企業の範囲をグループ企業まで拡大する仕組みが設けられます。
※子会社、関連会社の範囲は、会社法等の定義を参考に厚生労働省令で定められます。

義務違反の企業に対する公表規定の導入

高年齢者雇用確保措置義務に関する勧告に従わない企業名を公表する規定が設けられます。

指針の策定

業務の遂行に堪えない人を継続雇用制度でどのように取り扱うかなど、事業主が講ずべき高年齢者雇用確保措置の実施および運用に関する指針が策定されました。
指針には、就業規則に定める解雇・退職事由(年齢に係るものを除く)に該当する場合には、継続雇用しないことができるなどが盛り込まれました。

施行期日

平成25年4月1日

【経過措置】
厚生年金(報酬比例部分)の支給開始年齢に到達した以降の者を対象に、基準を引き続き利用できる12年間の経過措置が設けられます。

継続雇用制度の経過措置

企業に必要な対応

これらの改正を受け、企業は平成25年4月までに継続雇用制度の対象者を選別する基準を廃止することが必要です。
これは企業の規模や業種に関わりなく、定年の年齢を65歳未満にしている企業のうち、次の事項に該当すれば就業規則の改定が必要になります。

平成25年4月までに対応が必要
  • 労使協定で定める基準に該当する者を65歳まで継続して雇用する制度を導入している

    ⇒就業規則等の改正が必要です

平成25年4月までに対応は不要
  • 次の(a)~(c)のいずれかに該当する

    (a)定年の年齢が65歳以上
    (b)定年制を設けていない
    (c)希望者全員を65歳まで継続して雇用する制度を導入

    ⇒今回の法改正に伴う制度の見直しの必要はなし

就業規則規定(例)

65歳未満の定年を定めている事業主が、高年齢者雇用確保措置ちして継続雇用制度を導入する場合、現行の法律では、継続雇用の対象者を限定する基準を労使協定で定めることができます。今回の改正でこの仕組みが廃止されるため、平成25年4月1日からは、希望者全員を継続雇用制度の対象とするように、この基準を削除する就業規則の変更が必要になります。

(例)希望者全員を65歳まで継続雇用する

第○条 従業員の定年は満60歳とし、60歳に達した年度の末日をもって退職とする。ただし、本人が希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない者については、65歳まで継続雇用する。

(例)経過措置を利用する場合

第○条 従業員の定年は満60歳とし、60歳に達した年度の末日をもって退職とする。ただし、本人が希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない者であって、高年齢者雇用安定法一部改正法附則第3項に基づきなお効力を有することとされる改正前の高年齢者雇用安定法第9条第2項に基づく労使協定の定めるところにより、次の各号に掲げる基準(以下、「基準」という)のいずれにも該当する者については、65歳まで継続雇用し、基準のいずれかを満たさない者については、基準の適用年齢まで継続雇用する。
(1)引き続き勤務することを希望している者
(2)過去○年間の出席率が○%以上の者
(3)直近の健康診断の結果、業務遂行に問題がないこと
(4)○○○○

2 前項の場合において、次に掲げる期間における当該基準の適用については、(A)に掲げる区分に応じ、それぞれ(B)に掲げる年齢以上の者を対象に行うものとする。

◆適用年度による区分(A) ◆基準適用可能年齢(B)
平成25年4月1日から平成28年3月31日まで 61歳
平成28年4月1日から平成31年3月31日まで 62歳
平成31年4月1日から平成34年3月31日まで 63歳
平成34年4月1日から平成36年4月31日まで 64歳

今後の課題

厚生年金の定額部分は、平成13年度から順次、支給開始年齢が引き上げられています。平成25年度からは、報酬比例部分の引上げも開始されます。現在は報酬比例部分の支給開始年齢は60歳ですが、男性の場合は平成25年度から3年ごとに1歳ずつ引き上げられ、平成37年(2025年、女性は2030年度)には65歳からの支給となります。
年金の支給がなくなれば、60歳以降も継続雇用を希望する人が増えるのは必至です。多くの人が年金の支給開始年齢まで引退の時期を引き延ばす選択をするでしょう。
高年齢雇用安定法の改正には経営側の反発が非常に強い状況にありました。これは言うまでもなく人経費の増加への懸念です。今後、企業は人件費増加への対応に加え、能力や意欲に応じた賃金制度の構築、健康状態は個人差も大きくなりますので、それらに対応した職場環境の整備も急務となります。今回の改正で再雇用先がグループ会社まで広げられたことにより、在職中から他の企業にも移りやすい能力開発やコミュニケーション能力の向上に企業側は取り組む必要があります。
 また、労働者側も定年退職を迎える年齢の多くが80歳、90歳と高齢の両親の介護・看護に直面することも考えられます。継続雇用を希望したくても、介護・看護のために希望できない状況もあり得ることも念頭に入れておかなければなりません。今後さらに早い段階からのキャリアやお金を含めたライフプランの準備が必要となるでしょう。
労使ともにワークライフバランスへの取組がますます求められます。

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